鎌倉プリント・コレクションへようこそ ・ フォトグラビュール 銅版画、ミラー・ピーター (Peter Miller)

ビデオ:鎌倉テレビ放送「湘南流〜ピーター・ミラー銅版画家

技法 (ペジ2) ・ ミラー・ピーター

この紫外線の当たり具合の差がゼラチン層の厚さの違いをつくり出します。紫外線は、交差結合として知られているゼラチンの分子が相互に長い鎖状に結びつこうとする作用を活性化します(図4)。なぜエネルギーが物質に転換されるのかははっきりと解明されていませんが、似たような光反応が、植物の生命に見られます。紫外線の量に完全に比例して結晶化が起こるので、たとえ、極端に明るい部分であっても、また、極端に暗い部分であっても、トーンを克明に記録する事ができます。

Cross-linking図4

紫外線で感光したゼラチンの交差結合によりつくられた浸透性の防蝕層

紫外線により露光したゼラチンを暗がりで銅板に転写するのは、とても繊細な作業になります。湿ったゼラチンは、糊状になっており、画像が大変壊れやすい状態になります。この作業はきれいに洗浄した銅版が酸化する前にすみやかに行わなければならなりません。度重なる失敗から私が学んだことは、この工程ではもし何かまずいところがあれば、それ以上続けたところで意味がないということです。ここでの失敗の為に、それまでのさまざまな努力が無になることを悔やまずに、この場合は初めからやり直すことです。しばらく置いて、紫外線で露光されたゼラチンと銅版がうまく着いたら、次の工程で露光されなかった部分のゼラチンを洗い流します。ここで、急激な温度の変化を注意深く避けなければなりません。ここでは、温水によりイメージが現れるまで作業をおこないます。そして、ゼラチンは版全体にわたって均質に乾かさなければなりません。もし、不均一な場合、腐食または、刷りの時に現れてきます。場合によっては、この様な失敗も作品のイメージに貢献することもあります。私の作品の「ポテトムーン」の表面のクレーターは、製版の工程で、防触層が壊れたことによってできたものです。そうは言っても、多くの場合、この工程での失敗は、防蝕層を剥がし最初からやり直すことを意味します。

Resist 図5銅板に施したゼラチン防蝕層

乾燥後、イメージの部分だけを腐蝕させるため、それ以外の部分はマスキングします。そして、液温20℃で、45から37ボーメ(ボーメは液の比重を計測する単位)の間で、いくつか比重の違う塩化第2鉄液の槽を用意します。最初の腐蝕液は最も薄い防蝕層のみを通過します。これは画像の最も暗い部分になります。さらに水で薄められた腐蝕液は、もう少し厚い防蝕層に染み込み通過し、中間のトーンの腐蝕を始め、ハイライト部へと続いていきます。もし、防蝕層に紫外線を当てすぎたなら、腐蝕液は決してハイライト部は通過しません。適切に露光された防蝕層は、真っ黒からハイライトまでのすべての調子を細密に再現してくれます。紫外線によって感光する素材は、普通の写真のフィルムと違って、全ての光量の範囲で線的な反応を示します。(普通写真で使われている感光材では、ハイライト部や、暗部では、トーンの再現幅が詰まってきます。) この優れたトーンの再現能力によって、フォトグラヴュールは、太陽光線や雲、雪といった真っ白に近い部分、また、影の中の質感などの真っ黒に近い部分のトーンを微細に再現します。腐蝕のスピードは、腐蝕が進むに連れて速くなっていくので、雲、雪、などといった明るいトーンを再現する為に、最後のハイライト部の腐蝕は手短に行わなければなりません。頃合いを見計らい、最後に冷たい水に銅板を浸け腐蝕を止めます。そして、いくつかの薬品を用いて、その役目を終えた防蝕層とアクアチント紛を銅板から剥がします。図6は、腐蝕された銅板の断面図です。

PlateEtched図6腐蝕された銅板

腐蝕が終わって版をきれいにしたら、版の状態を調べます。もし良好ならば、イメージの周りの銅板を切り取り、プレス機で刷るために版の縁にヤスリをかけ斜めに落とします。(斜めに削られたエッジは、銅版画独特のプレートマークと呼ばれるプレス圧による押し跡を紙に残します。またこのエッジはインクが残らないように完全に磨きます。)画像の暗い部分は、明るい部分に比べて、20〜30倍の深さに腐蝕されており沢山のインクを保持し、ビロードのような深い黒を作り出します。このインクの深みは、他の方法からは生まれないもうひとつの凹版の特徴的な質感です。複製的な目的でつくられた印刷物は、網点によって似たような調子の再現は行いますが、フォトグラヴュールの様なインクの厚みによる豊かな深みをつくりだすことはありません。(大量に印刷するためには、薄めた、より簡便な流動性のあるインクが必要となります。)

適切に版から版画用紙もしくは和紙に刷りとるために、版画インクにはちょうどよい粘り具合が必要となります。細かく挽いた顔料と、粘性の高いリンシードオイル、インクの乾きを速めたり、遅らせたりするための材料を混ぜ合わせます。

Ink 図7エッチングインク

 

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