ビデオ:鎌倉テレビ放送「湘南流〜ピーター・ミラー銅版画家」
技法 ・ ミラー・ピーター
版画の世界で、人々はオリジナルプリントということについて、様々な捕らえ方をしています。さらに最近では、ニューメディアがその解釈の幅を多様化しているという見方もあります。しかし、オリジナルプリントとは、その作者独自の視点が映し出された手でつくられた作品であるということは、すべての意見の一致するところです。500年以上前に初めて現れた時以来版画は、人々の密かな個人的な楽しみとして、また、情報のメディアとして貴重なものとなりましました。共有された秘密と個人的な啓示に至った版画は、その複数性により社会的な意味を獲得した。版画技法の変遷は、しばしば版画の持つ個人的な側面と社会的な側面の間に、緊張感を与えてきました。大量印刷が速く、安価に印刷物の情報をばら撒くことのできる今日、芸術作品としての版画は絶滅の危機に瀕している様にも見えます。しかし、5世紀を越える歴史の中で、芸術家の手とヴィジョンをひとつの物として、版画作品それ自体の中に反映してきたということにより、版画は今後も長く生き残り人々に楽しみを与えていくでしょう。
版画作品には版が摩滅することによりその部数には限界がありますが、この版の摩滅は、インクや紙、また版からインクを拭き取るときのやり方の違いと共に部数の一枚一枚に少しずつ違った表情を与えます。版画は3つの異なるタイプの版より紙にインクを写し取ることによってつくりだされます。<1> イメージをかたちづくるインクが、版上の凸部に保持されるもの(木版画)。<2> イメージをかたちづくるインクが、版の表面上に保持されるもの(リトグラフとシルクスクリーン)。<3>イメージをかたちづくるインクが、版上の凹部に保持されるもの(エングレービング、ドライポイント、エッチング、アクアチント、メゾチント、そしてフォトグラヴュールなどの銅版画)。これらの基本的な方法の中に、数多くの技法が存在します。以下の文章では、私が実際におこなっている、1830年代にW・H・F・タルボットとニセフォール・ニエプスによって端を発した技法について少し詳しくお話しいたします。 フォトグラヴュール、ヘリオグラヴュール、あるいは、グラヴュール・ア・ラクアチント、という名称でも知られるグラビアは、アクアチントによるエッチングの一種です。これは写真画像を、非常に保存性の高いインクにより紙の上に定着する技法です。非常に細かいアスファルトの粉末を銅版上に熱で溶かして着けます。このアスファルト粉末の付着した部分が、腐食せずに残り、微細な島状の部分をつくります。これらの島状の部分のすき間に腐食の作用によってできた溝がインクを保持することとなります。アクアチントは、水彩画のにじみの効果と似ていることで知られています。18世紀に発明されたこの技法は、銅版画のトーンの幅を飛躍的に広げました。箱の中に舞っている大変細かいアスファルト紛が、銅板上にランダムに降り積もります。このアスファルト紛を、ほんの少し溶けるまで加熱して銅版上に付着させます。この時、熱によってほんの少し流れかけたアスファルト紛が、図1の拡大図の様なアメーバ状の形になります。
図1 銅板へのアクアチントアクアチント層の上に、紫外線に対して感光性を持ったゼラチンの防触層を施します。このゼラチン層は浸透性で、腐蝕液が染み込み下の銅板を腐食し始めるタイミングをコントロールします。普通のエッチングでは、防触層が完全に腐蝕液を妨げるか、線で引っかいて銅の露出した部分が、腐蝕作用によって刻まれるかのいずれかですが、フォトグラヴュールで用いる防触層は浸透性で、その厚さの違いが重要なこととなります。最も薄い防蝕層の部分は、腐蝕液がすぐ染み込み銅板を最も深く腐蝕します。この部分は、画像の最も暗い部分となります。厚い防蝕層は、より長い時間腐蝕液を保持し、その部分の腐蝕は浅いものとなります。いくつかの濃度の違う腐蝕槽を移動して腐蝕をおこなうことで、それぞれのトーンをどれくらいの深さで腐蝕するかを調節する事が出来ます。図2は、腐蝕
図2腐蝕前の銅板アスファルト紛(黒い点々)を熱で銅板上に付着し、その上に浸透性の防蝕層が施してあります。どのようにして、防蝕層は厚くなったり薄くなったりするのでしょうか。紫外線光は、ゼラチンを硬化もしくは結晶化させるという化学反応を引き起こします。透明陽画(ポジフィルム)を密着して露出した時(図3)、ハイライトの部分は沢山紫外線を通し、暗い部分はあまり紫外線を通しません。
のための準備ができた銅板の拡大した断面図です。
図3防蝕層への露光
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