The Kamakura Print Collection, Photogravure Etchings by Peter Miller

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About Photogravure – Technics

フォトグラビュールの技法

※ぜひVideoページもご覧ください。制作の様子が動画(鎌倉ケーブルテレビの放送内容)で見られます。

版画作品には版が摩滅することによりその部数には限界がありますが、この版の摩滅は、インクや紙、また版からインクを拭き取るときのやり方の違いと共に部数の一枚一枚に少しずつ違った表情を与えます。版画は3つの異なるタイプの版より紙にインクを写し取ることによってつくりだされます。

<1>イメージをかたちづくるインクが、版上の凸部に保持されるもの(木版画)。
<2>イメージをかたちづくるインクが、版の表面上に保持されるもの(リトグラフとシルクスクリーン)。
<3>イメージをかたちづくるインクが、版上の凹部に保持されるもの(エングレービング、ドライポイント、エッチング、アクアチント、メゾチント、そしてフォトグラヴュールなどの銅版画)。

これらの基本的な方法の中に、数多くの技法が存在します。
以下の文章では、私が実際におこなっている、1830年代にW・H・F・タルボットとニセフォール・ニエプスによって端を発した技法について少し詳しくお話しいたします。 フォトグラヴュール、ヘリオグラヴュール、あるいは、グラヴュール・ア・ラクアチント、という名称でも知られるグラビアは、アクアチントによるエッチングの一種です。これは写真画像を、非常に保存性の高いインクにより紙の上に定着する技法です。非常に細かいアスファルトの粉末を銅版上に熱で溶かして着けます。このアスファルト粉末の付着した部分が、腐食せずに残り、微細な島状の部分をつくります。これらの島状の部分のすき間に腐食の作用によってできた溝がインクを保持することとなります。アクアチントは、水彩画のにじみの効果と似ていることで知られています。18世紀に発明されたこの技法は、銅版画のトーンの幅を飛躍的に広げました。箱の中に舞っている大変細かいアスファルト紛が、銅板上にランダムに降り積もります。このアスファルト紛を、ほんの少し溶けるまで加熱して銅版上に付着させます。この時、熱によってほんの少し流れかけたアスファルト紛が、図1の拡大図の様なアメーバ状の形になります。

DustAquatint

図1 銅板へのアクアチント

アクアチント層の上に、紫外線に対して感光性を持ったゼラチンの防触層を施します。このゼラチン層は浸透性で、腐蝕液が染み込み下の銅板を腐食し始めるタイミングをコントロールします。普通のエッチングでは、防触層が完全に腐蝕液を妨げるか、線で引っかいて銅の露出した部分が、腐蝕作用によって刻まれるかのいずれかですが、フォトグラヴュールで用いる防触層は浸透性で、その厚さの違いが重要なこととなります。最も薄い防蝕層の部分は、腐蝕液がすぐ染み込み銅板を最も深く腐蝕します。この部分は、画像の最も暗い部分となります。厚い防蝕層は、より長い時間腐蝕液を保持し、その部分の腐蝕は浅いものとなります。いくつかの濃度の違う腐蝕槽を移動して腐蝕をおこなうことで、それぞれのトーンをどれくらいの深さで腐蝕するかを調節する事が出来ます。


PlatePreEtch

図2 腐蝕前の銅板

図2は、腐蝕アスファルト紛(黒い点々)を熱で銅板上に付着し、その上に浸透性の防蝕層が施してあります。どのようにして、防蝕層は厚くなったり薄くなったりするのでしょうか。紫外線光は、ゼラチンを硬化もしくは結晶化させるという化学反応を引き起こします。透明陽画(ポジフィルム)を密着して露出した時(図3)、ハイライトの部分はたくさん紫外線を通し、暗い部分はあまり紫外線を通しません。露光のための準備ができた銅板の拡大した断面図です。

Exposure

図3防蝕層への露光

この紫外線の当たり具合の差がゼラチン層の厚さの違いをつくり出します。紫外線は、交差結合として知られているゼラチンの分子が相互に長い鎖状に結びつこうとする作用を活性化します(図4)。なぜエネルギーが物質に転換されるのかははっきりと解明されていませんが、似たような光反応が、植物の生命に見られます。紫外線の量に完全に比例して結晶化が起こるので、たとえ、極端に明るい部分であっても、また、極端に暗い部分であっても、トーンを克明に記録する事ができます。


Cross-linking

図4紫外線で感光したゼラチンの交差結合によりつくられた浸透性の防蝕層

紫外線により露光したゼラチンを暗がりで銅板に転写するのは、とても繊細な作業になります。湿ったゼラチンは、糊状になっており、画像が大変壊れやすい状態になります。この作業はきれいに洗浄した銅版が酸化する前にすみやかに行わなければならなりません。度重なる失敗から私が学んだことは、この工程ではもし何かまずいところがあれば、それ以上続けたところで意味がないということです。ここでの失敗の為に、それまでのさまざまな努力が無になることを悔やまずに、この場合は初めからやり直すことです。しばらく置いて、紫外線で露光されたゼラチンと銅版がうまく着いたら、次の工程で露光されなかった部分のゼラチンを洗い流します。ここで、急激な温度の変化を注意深く避けなければなりません。ここでは、温水によりイメージが現れるまで作業をおこないます。そして、ゼラチンは版全体にわたって均質に乾かさなければなりません。もし、不均一な場合、腐食または、刷りの時に現れてきます。場合によっては、この様な失敗も作品のイメージに貢献することもあります。私の作品の「ポテトムーン」の表面のクレーターは、製版の工程で、防触層が壊れたことによってできたものです。そうは言っても、多くの場合、この工程での失敗は、防蝕層を剥がし最初からやり直すことを意味します。


Resist

図5銅板に施したゼラチン防蝕層

乾燥後、イメージの部分だけを腐蝕させるため、それ以外の部分はマスキングします。そして、液温20℃で、45から37ボーメ(ボーメは液の比重を計測する単位)の間で、いくつか比重の違う塩化第2鉄液の槽を用意します。最初の腐蝕液は最も薄い防蝕層のみを通過します。これは画像の最も暗い部分になります。さらに水で薄められた腐蝕液は、もう少し厚い防蝕層に染み込み通過し、中間のトーンの腐蝕を始め、ハイライト部へと続いていきます。もし、防蝕層に紫外線を当てすぎたなら、腐蝕液は決してハイライト部は通過しません。適切に露光された防蝕層は、真っ黒からハイライトまでのすべての調子を細密に再現してくれます。紫外線によって感光する素材は、普通の写真のフィルムと違って、全ての光量の範囲で線的な反応を示します。(普通写真で使われている感光材では、ハイライト部や、暗部では、トーンの再現幅が詰まってきます。) この優れたトーンの再現能力によって、フォトグラヴュールは、太陽光線や雲、雪といった真っ白に近い部分、また、影の中の質感などの真っ黒に近い部分のトーンを微細に再現します。腐蝕のスピードは、腐蝕が進むに連れて速くなっていくので、雲、雪、などといった明るいトーンを再現する為に、最後のハイライト部の腐蝕は手短に行わなければなりません。頃合いを見計らい、最後に冷たい水に銅板を浸け腐蝕を止めます。そして、いくつかの薬品を用いて、その役目を終えた防蝕層とアクアチント紛を銅板から剥がします。図6は、腐蝕された銅板の断面図です。


PlateEtched

図6腐蝕された銅板

腐蝕が終わって版をきれいにしたら、版の状態を調べます。もし良好ならば、イメージの周りの銅板を切り取り、プレス機で刷るために版の縁にヤスリをかけ斜めに落とします。(斜めに削られたエッジは、銅版画独特のプレートマークと呼ばれるプレス圧による押し跡を紙に残します。またこのエッジはインクが残らないように完全に磨きます。)画像の暗い部分は、明るい部分に比べて、20〜30倍の深さに腐蝕されておりたくさんのインクを保持し、ビロードのような深い黒を作り出します。このインクの深みは、他の方法からは生まれないもうひとつの凹版の特徴的な質感です。複製的な目的でつくられた印刷物は、網点によって似たような調子の再現は行いますが、フォトグラヴュールの様なインクの厚みによる豊かな深みをつくりだすことはありません。(大量に印刷するためには、薄めた、より簡便な流動性のあるインクが必要となります。)

適切に版から版画用紙もしくは和紙に刷りとるために、版画インクにはちょうどよい粘り具合が必要となります。細かく挽いた顔料と、粘性の高いリンシードオイル、インクの乾きを速めたり、遅らせたりするための材料を混ぜ合わせます。

Ink

図7エッチングインク

さらに、透明あるいは不透明にするための材料を加えます。銅版画用インクは新鮮なものがよいので、私は、刷りの度に、必要なだけのインクを混ぜ合わせます。インクは図6のようにナイフから少しずつ垂れ落ちなければならず、決して流れ落ちるようであってはいけません。インクがこのような状態であって初めて、鮮明かつ明瞭な刷りを可能にするなめらかな拭きが可能となります。私は、それぞれのイメージに合わせて、さまざまな粘度の黒インク、また黒とセピア、バーント・アンバー、またはブルーを混ぜたものを使います。刷りを始めるとき、私は普通さまざまなインクと紙を試し、そのイメージにあったインクと紙の組み合わせを探します。インクの着き具合、どのくらいインクを吸収するか、トーン、表面の質感など、銅版画用の紙には、様々なものがあります(図8)。

Etching papers

図8版画用紙と和紙

銅版画用の紙には、強い圧に耐える強さが必要であり、同時に細かいニュアンスを刷り取れる繊細さが必要となります。私は堅めであまりインクを吸い込まない紙を、砂や雪などの比較的明るいイメージに使います。深く腐蝕された版は、よりインクの吸い込みの良い紙や和紙に刷ったときに良い結果を生みます。大変薄い和紙を、厚めの紙に貼り込むことで繊細な刷り効果を得ることが出来ます。インクは薄い紙を突き抜け、また部分的に下の紙の色が作品に生かされます。腐蝕されていない島状の部分やイメージのハイライトの部分からインクを拭き取るのは見たところ単純な作業に見えますが、実際は作品の数だけインクの拭き方が存在します。一般に拭き方は、蚊帳のような寒冷紗と呼ばれる布で、インクを版の溝の部分に詰め込んでゆき、徐々に拭く圧力を弱めながら拭き取ります。そして、イメージの暗い部分にインクは多く残り、明るい部分に残るインクは少なくなります。どうしても、ひと拭きひと拭きインクが、暗い部分から拭きだされ、明るい部分に移っていきます。このことで、油膜が版に残りハイライトにトーンが乗ったり、細部のコントラストが落ちたりします。イメージの明るい部分から暗い部分へ拭き進んでいけばコントラストが高かくなります。

銅版画用プレス(図9)は、2本のローラーの間にベットプレートがはさまった形になっており、ローラーの圧力を調節して、版から紙にインクを刷りとるのに充分な圧を与えます。


Press

図9エッチングプレス

私は普通、一度にエディション(限定部数)全部を刷ることはせずに、1回の刷りで、5枚から10枚位刷ります。刷り上がった作品1枚1枚に付ける日付は、刷った日ではなく、版を腐蝕した日とします。作品が刷り上がったら、私は、インクの盛り上がりをつぶさないために、押しなどせず、少なくとも1週間から10日間自然乾燥します。わたしは、しばしば、いくつかの版を同時に進めますが、1点の作品の全部の工程を終えるのに約一月を費やします。

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